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■緻密な読みが東大流!?

 南1局1本場、須田プロの手牌はこの局がハイライトでした。まずは5巡目、手牌が面白い「何を切る!?」になっています。ドラはで、何を切るのがいいでしょう?

 ドラ

 234と345の三色が狙える牌姿です。のいずれかを切って、どちらかの三色に決め打ちするのが最短コースです。とはいえここは決め打ちせず、ドラのを切る人が多いだろうと思います。

 ここで須田プロが切ったのは。「アタマはいつでもできるから」とのことでしたが、これにはびっくりしました。これはなかなかレトロな打ち方で、阿佐田哲也氏の小説にはこんな打牌がよくでてきます。たとえばこんな手牌から、三色にも一通にも決めずにアタマのを落とすのです。

 スピードより手役を大事にする打ち方ですが、いまではスピードを重視して、ここで三色か一通に決める打ち方が普通になっています。単純化するなら「アタマはいつでもできる」→「失われた一巡は戻らない」という価値観の転換があったわけです。これまで主戦場としてきた雀荘ではご祝儀や赤牌がいっぱい入った博打麻雀をしてきた須田プロですが、知性に生きる東大生の性なのでしょうか、レトロな傾向があるようでした。

 この局、この手牌にもう一度びっくりする局面がありました。それは前の牌姿から10巡経過した15巡目のこと。このときは、すでに風に吹かれて♪氏からリーチが入っていました。

 ツモ

 ここにを引き戻したため、須田プロはを切ればテンパイします。が4枚とも見えており、リーチにが当たることはまず考えられません。しかしここで須田プロが切ったのは、テンパイ取らずの切り。あえてテンパイを取らなかったのです。その理由を聞いてみました。

「ここはテンパイを取るメリットよりも、このを親にポンされて形テンを取られるリスクの方が嫌なんですよ。だからノーテンでいいんです」

 どうでしょう。須田プロはリーチ者以外の人に形式テンパイを取られる可能性までケアして、打牌を決めているのですね。なんという緻密さでしょうか。そして実際に彼が配慮した通り、親の濱※おめクラ※氏はをポンすれば形式テンパイが取れていたのでした。こうして、この局も無事(?)に流局しました。


牌図1

 小説家の井上靖氏の文章で、こんな内容のものを読んだことがあります。

「高校時代は柔道に打ち込んだ。絶対不敗の柔道を目指したから、それは寝技の柔道だった」

 柔道で絶対に勝とうとするならば、リスクの高い立ち技よりも寝技を選ぶことにな るわけです(いまではルールが違いますが)。この柔道を麻雀に置きかえると、須田プロの麻雀に近いのではないでしょうか。すなわち、確実な勝ちをめざすからには、テンパイすらさせない寝技でいくと。1回戦はこのあとも須田プロの寝技によって次々と流局し、須田プロまずは一勝です。

 1回戦は須田プロの長所が十分に発揮された半荘となりました。その長所とは緻密さです。緻密な麻雀は小場を得意としますから、展開に恵まれたわけです。しかし何の因果か、2回戦はまったく違う展開になったのでした。


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