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 雀賢荘では、トップ率や総合得点で強さが示されます。それは不特定多数を相手にどれだけ勝ったのかを競うもので、いうなれば数字との闘いです。しかし麻雀プロの世界は違います。上級者同士が集まって、そのなかで強弱を競います。そして勝つたびに相手が強くなっていきます。タイトル戦ともなれば、固定の4人で何回も打つのです。つまり人間との闘いです。

 そこで決定的に違うのは、スピードの比重です。ここでいうスピードとは、メンゼンで早くテンパイする技術と鳴きのテクニックの両方です。予選大会で上位に入るには、一にも二にもスピードで、三、四がなくて、五に破壊力ではないでしょうか。

 以前のプロ対戦で、宇野康介プロがこんな手牌から、こんなテンパイに仕上げたことがありました。
3巡目
 ドラ
9巡目
 ポン ポン
 見事なマンガン作りですが、競技プロ特有の打ち方ともいえそうです。この強引なホンイツへの寄せを見れば、先ほどのハリー氏の手牌で、プロだったら鳴かないというのも納得でしょう。

 こういった手作りをする一方で、麻雀プロは振り込みを極端に嫌い、他人の必要牌を押さえ込もうとします。そうなると、字牌をポンしたら簡単にアガれるホンイツでも、字牌を鳴けないままアガれないケースも多くなります。大袈裟にいうなら、プロの麻雀とは自分がアガろうとする麻雀ではなく、他人にアガらせない麻雀となっているのです。

 そうなるとスピードでは勝てません。みんなが突っ込んでくる場でなければ、早くテンパイしてもなかなかアガれないのです。その場合には破壊力が重要になってきます。雀賢荘にも何人か若手のプロがいますが、彼らの麻雀を観戦してみると、テンパイスピードよりも手役と割り込み回避を重視する打ち方がよくわかると思います。プロ同士の対戦になると、そういった麻雀を打たないかぎり勝てないのです(ただし雀賢荘にいる若手プロたちは一発裏ドラなしの団体に所属しているという事情もあるでしょう)。

 とはいえ、こういった大袈裟な理屈は、ちょっと考えすぎなのかもしれません。この日、崎見プロは手役派の麻雀を打ちませんでした。じつは彼女がスピード負けするもっと単純な理由があったのです。それは徹底したメンゼン派だということでした。

 プロ団体のHPに「タテヅモの流れを掴むのを得意とする」と紹介されていたように、崎見プロの戦術はツモの予測から成り立っています。一枚ツモってくるごとに感触を確かめて、将来のツモを予測していくのです。とくにトイツ場(トイツやアンコばかりできる場)になっていないか、いつも気をつけています。そして、他の三人が不要そうな牌、すなわちヤマに残っている牌を推測し、可能なかぎりそこにテンパイを合わせていきます。

 つまり、崎見プロはほとんど鳴かないのです。この日、他の三人が鳴き派だったために、崎見プロは手牌のスピードで完全に遅れてしまったのです。プロにはメンゼン派が多いため、プロに勝ちたいなら、どんどん鳴いていくのが近道かもしれません。



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